今回は、このブログには珍しく、とってもためになる情報をご提供いたします。
とある日、とある陸自の車検ラインに並んでおりますと、突然、フュウッ、フュウッ、フュウッ、と何度聞いても聞き慣れることのない「例のサイレン音」が背後でしたのです。条件反射的に振り返ると、なんと、そこに停まっているのはシルバーのスズキ・スイフトではありませんか!
呆気にとられてスイフトを眺める私に検査官が一言。「見分けるにはルーフの無線アンテナしかないな」
そう、スイフトの覆面パトカーだったのです。意外に知られていませんが、パトカーや白バイといった警察車両も一般車両に混ざって車検を受けています。緊急車両にはサイレンの検査があるのです。仮ナンバーを付けているので、おそらく、パトカー仕様に改造された後、新規登録に来ていたのでしょう。とにかく、スイフトの覆面パトカーが存在する、という事実をお知らせ致したく、この稿を立てた次第です。これが今回、お伝えしたいことの全てなのですが、せっかくですからスズキの覆面パトカーがらみで話題をつなげさせていただきます。
不遇のハイエンドモデル
スズキ・キザシという車をご存知でしょうか?ある日突然、覆面パトカーに大量採用されたことで話題になるまで、スズキのラインナップのハイエンドながら、誰も世に存在していたことを知らなかったスポーツコンパクトセダンです。
キザシが覆面パトカーに大量導入された経緯は、スズキの北米市場撤退(後述)でだぶついた在庫の処分という悲しい裏事情があります。
キザシは北米を主戦場とするゆえ、国内販売は本気ではなかったとはいえ、6年に渡る累計登録台数がわずか3,500台(フェラーリの年700台を下回る!)、このうち900台が・・・4台に1台が覆面パトカーなんだそうです。ゆえに街を走っているキザシが覆面パトカーである確率は極めて高く、もはや「覆面」の態をなしていない・・・現場の警察官からも、「仕事」がやりづらいと不評であることを耳にします。
以下の画像は私が都下の某警察署前で見つけたキザシの覆面パトカーです。とっさの判断で、運転中であるにも関わらず、撮影に至りました。なんと、キザシだけで白、銀合わせて4台も置いてありました。他にレガシー(黒)も1台ありましたね。ここの警察署は、かなりのシブ好みとお見受けいたします。
ちなみに、覆面パトカーを見破るポイントは・・・、
フォグランプが無いこと
ルーフ後部に無線アンテナがあること
だそうです。
キザシの覆面パトカーの台数が900台(正確には908台)という事実は、どのようにして世に広まったのでしょうか?
なんとキザシは覆面パトカーとして納車した早々、全車リコールを出しているんですね!そこで対象台数が908台と、堂々テレビなどマスメディアを通して発表されてしまったのです。
リコールの内容は、「左のフェンダー内に設置されたサイレンに水抜き穴を開けていなかったため、内部に水がたまると音が極端に小さくなる 」というもの。
デッカいスズキでデッカい失敗
キザシは、王者フォルクスワーゲン・ゴルフが君臨するCセグメントのプレミアム市場に殴り込みをかけるべく準備されました。スズキ幹部をして、「スズキがここまでできるということを、世に知らしめたい」と言わしめた渾身の作でした。
プレミアムらしく、日本国内では全車に本革シートを採用していて、新車価格は300万円と立派なもの。北米では2万ドルクラスに相当、広告では2万ドルでも4万ドルクラスの内容、と謳っています。
エンジンは、2.4L直4エンジンを横置きにし、CVT(海外仕様には6速MTの設定あり)と組み合わせ、パートタイム4WD(海外仕様にはFFの設定あり)で駆動する、というスズキお得意のメカニズムで固めています。特にジムニーで磨いた4WDが売りなんでしょう。広告でも強く訴求しています。アウディやスバルといった、ひとクセある立ち位置を狙っていたのでしょうか。
2009年秋、国内で試験的に受注生産を受けたのを皮切りに、すぐに本命の北米での販売を始めます。しかし、その命はわずか4年しか続きませんでした。
リーマンショックの余波と円高にも苦しめられ、北米子会社が販売不振で280億円の負債を積み上げると、本社は、海外市場は強みのある新興国市場に特化するという経営判断を下します。2013年いっぱいで、プレミアムクラスどころかスズキ4輪全車の北米撤退が決定されます。
北米市場をあきらめた時点でキザシの存在理由はなくなるも、生産は2015年末まで続けられ、生産終了後に後継モデルの登場はありませんでした。
2010年 SuzukiKicks キャンペーン
北米導入初年度に製作されたCM動画は興味深くあります。比較広告なんですが、対象はMB C300(プレミアム性)、Audi A4(運動性)、Volvo S40(安全性)と錚々たる面々で驚かされます。
Youtubeのコメント欄には、競合車オーナーからの「相手にしてくれるな、おこがましい!」的な反論・・・というか罵詈雑言で溢れているのはご愛嬌といったところでしょうか(笑)製作側もそれは織り込み済で、なかなか楽しめる(悲しい?)オチを残しておいてくれています。
Kizashi vs. Mercedes C300 and A Stretch Limo
Kizashi vs. Audi A4 and a Motorized Sofa
Kizashi vs. Volvo S40 and A Bubble Wrap Suit
ちなみに、スズキは北米向けカタログで、「スズキは、BMW、ダッジ、スバル、そのほか多くのメーカーよりも、たくさんの車を世界中で売っています」やら、「ご存知ですか?スズキは日本ではホンダよりも大きな自動車製造会社なのです」やら、決して見過ごせないことをしれっと書き切っています!
2007年 コンセプト・キザシ
キザシは市販に至るまでに3種のコンセプトモデルで世に問うています。2007年9月のフランクフルトショーにワゴンボディで初登場しました。
2007年 コンセプト・キザシ2
2007年10月の東京ショーではSUVの「2」を発表。
2008年 コンセプト・キザシ3
2008年3月のニューヨークショーで公開された「3」は、量産版に近いセダンとなっています。セダンの販売がうまくいったのであれば、一連のコンセプトのようなバリエーション展開があったということでしょうか。
2010年 ニュルブルクリンク・テスト
おきまりのニュルブルクリンク北コースでのテストも行っています。
同じFFレイアウトで、BMWに匹敵する走りと評価の高かった「フォード・モンデオ」がベンチマークだったそうです。
2010年 コンセプト・ターボ・キザシ
スズキは所詮、骨の髄からオートバイメーカーなんですね・・・キザシの北米上陸初年度に早くも販売プロモーションのためのスペシャルモデルの製作を、市井のチューニングショップ(ロードレースモータースポーツ)に依頼しています。
エンジン排気量はそのままで、ターボとインタークーラーを追加、最大出力を188psから290psまでアップし、あわせて足回りも固めています。外装はリアスポイラーの装備程度に抑えているのは、メーカー系スープアップモデル・・・BMWのM仕様のような展開を考えていて、その布石だったのではないか、と思わされます。
513馬力のキザシ
ターボのコンセプトモデルに続いて、ユタ州ソルトレイクの「ボンネビル」塩平原での速度記録に挑戦しています。ターボ加給で513PSを絞り出すキザシは、203.720mph(約326km/h)というクラス新記録を打ち立てています。
Kizashi Smashes Record at Bonneville
なかなかカッコよいですね。シャコタンは七難隠します。
2011年 キザシ・APEXコンセプト
もっとオートバイメーカー丸出しなのが、オーストラリアの子会社が製作したAPEXコンセプトです。おそらく、エンジンはUSで造られたターボ・キザシから引き継いで、足回りや外装を独自にチューンしたものと思われます。
ヨシムラGSXRのイメージが踏襲されているのは、Cセグ・プレミアムカーとして、果たして喜ぶべきことなのでしょうか・・・
スズキならキザシを磨き上げて、90年代のBMWのM3のような剽悍な車・・・そう3Lクラスのスイフト・スポーツというべき車をリーズナブルな価格で世に出すことはできたことでしょう。すべてがポシャってしまったことは、返す返すも残念でなりません。
海外広告
こういった普通な感じなものもありますが・・・
これはちょっと過激。日本の土壌には、そぐわない表現ですね。
ザ・ビースト・フロム・ジ・イースト。そこはかとなくゴジラの知名度を利用しているような、いないような・・・
得意のカタナ、サムライ路線。(過去にジムニーをUSでサムライと称して売っていました)いまどき、この手の安手のオリエンタリズムは、他メーカーではあまり使われていないような気がします。
ウクライナの広告。Cセグ・プレミアムを売るのにオートバイのイメージに頼っています。情けない・・・
アンテナだけではありません。むしろ、最近の捜査用車はアンテナすらない個体もあります。見分けるなら、ルーフに目をこらすことです。捜査用車は、ルーフに“ポッチ”がついています。これは、マグネットタイプの赤灯をルーフ中央に載せるための目印になっています。小さいですが、意外と目立ちます。ちなみに、交通取締りの覆面パトカーにはポッチがありません。赤灯はマグネットタイプではなく、自動的に上がる“反転灯”だからです。