ベベル・プロジェクト (11) – デロルト PHM の組立

2台分4基を一気にOHします。

再メッキされたオリジナルのネジ類。

シール類ほか劣化が予想される機能部品は新品を使います。左から加速ポンプ・ダイアフラム、フロートバルブ、シールキット。

シールキットの中身。

アイドル・ミクスチャー・スクリュー、アイドル・スピード・スクリュー(スロットルの位置決め)。

トップキャップ組立。

インシュレート部の組付。

フロート室内部。(A) チョーク用ジェット (B) メインジェット (C) アイドルジェット (D) 加速ポンプ用インレットバルブ。(右側2基はティクラー仕様のため、チョーク用ジェットがありません)

加速ポンプ部の組付。

チョークバルブ式のボディ。

ティクラー式のボディ。

トップキャップ+スロットルバルブ+ジェットニードル(JN)の組付。

完成です。

ティクラー式のPHMは900SSに、チョークバルブ式の方はMHRに取り付けます。

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[附録] デロルトキャブレターの機能解説

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ガソリンタンクから送られてくるガソリンが、キャブレターを介し・・・特にデロルトPHMにおいて、どういう経路を通って、またどういう形でエンジンに供給されるかをご説明いたします。

当方はPHMには以下の5つの機能系統があると考えています。

[A] フューエルフィード系 (燃料供給)
[B] スターター系 (始動時)
[C] アイドル&プログレッション系 (空転~低開度)
[D] 加速ポンプ系 (加速時補正)
[E] メイン系 (中~全開度)

以下にその5つの系統について解説いたします。

[A] フューエルフィード系

フロート室を中心としたガソリンをキャブ内に溜め、各所に供給する機能。

燃料タンクから送られてくるガソリンは、 フューエルユニオン → フューエルフィルター → フロートバルブ・シートの経路をたどってフロート室直前まで送り込まれます。

フロート室内のガソリンが消費されると、フロート室内のガソリンに浮いている フロートが下がります。すると、フロートに取り付けられている フロートバルブも下がり、フロート室にガソリンが流入します。ガソリンの流入によってフロートが上がると、フロートバルブも上がり、一定量の流入でバルブは閉まります。この繰り返しによって、フロート内のガソリンの高さ(油面)は一定に保たれるようになっています。なお、フロート室内の圧力は大気圧と等しくなるよう ベント・チューブを通じて外気と通気されています。

[B] スターター系

混合気を濃くすることでエンジン始動を補助する機能。

ティクラー式(左)とチョーク式(右)の2種類があり、2つが共存することはありません。

ティクラー式は プランジャー バネの組み合わせからなります。プランジャーを押し下げることでフロートが押し下げられ、フロートバルブが開いたままになります。(プランジャーから指を離せばバネの力でプランジャーは元の位置に戻り、フロートバルブも閉まります)つまり人為的にオーバーフローを起こすことで、エンジンスタート時に使うのに十分な量のガソリンを直に燃焼室に送っています

チョーク式は ノブ バルブ スタータージェットからなり、ノブを引っ張り上げるとバルブが開き、スタータージェットを通してガソリンをメインバレルを通過する混合気に追加する経路が確保されるようになっています。

[C] アイドル&プログレッション系

スロットルバルブが完全に閉じている状態(アイドル)からスロットルバルブを開け始めた状態(プログレッション)で機能する系統です。

エアインレットに進入した空気は、より断面積の小さい ダクトを通過します。ダクトで絞られた空気は、流速が上がる一方、低圧となるため(ベルヌーイの定理)、発生した負圧により、フロート室のガソリンは アイドルジェットを通して吸い上げられます。ダクトで空気とガソリンが混じり、混合気が作られます。

右端の アイドルミクスチュアポートまで到達した混合気は メインバレルに排出されますが、その量を調節するのが ミクスチャースクリューです。

混合気を排出するポートは、もうひとつあり、 プログレッションポートと呼んでいます。 スロットルバルブの開け始めに混合気が追加されるようになっています。

アイドル時のスロットルバルブの位置決めは アイドルアジャストスクリューで行います。

[D] 加速ポンプ系

加速時などアクセルが急に開けられた状況で機能します。

アクセル急開時に混合気にガソリンを追加する加速ポンプは、

インレットバルブ
ダイアフラム
ディスチャージバルブ

の3点が関連して作動することでポンプとして機能します。

スロットルバルブに付属するカムによって動かされる レバーが、ダイアフラムを作動させます。ダイアフラムポンプによって吸い上げられたガソリンは ポンプジェットからメインバレル内に射出されます。

ポンプの吐出量は アジャストスクリューで調節されます。

[E] メイン系

半~全開領域を担当する系統ですが、ここはほとんどのキャブレターで共通の機能ですので、今更細かい説明は不要かもしれません。

スロットルバルブを引き上げた状態では、ピストンの下降で引っ張られた大気が、 メイン・エアインレットから流入し、メインバレル内を高速で通過します。ベルヌーイの定理より、メインバレル内の圧力は大気圧より低くなるため、フロート室内のガソリンは メインジェットを通じてメインバレル内に引き上げられることになります。

その際、ガソリンは エマルジョンチューブを通過しますが、チューブ内では エアインレットから流入した空気と混合され、エマルジョン状態となります。(より燃焼に良い混合気とするための下準備)

メインバレルまで引き上げられたエマルジョンガスは、メインバレル内でさらに空気と混ざり、燃焼室に流入することになります。エマルジョンガスの量はメインジェットと ジェットニードルで規制されます。ジェットニードルはよく知られている通り、先端(下端)に向かってテーパー形状になっており、ジェットニードルの移動量に対してエマルジョンガスの流出量は非線形的に(前半は穏やかに、後半は激しく)増加します。

なんとデロルトがPHM用に準備するJNはK1からK98まで91種類ある(ことになっている)んですよ!

9 thoughts on “ベベル・プロジェクト (11) – デロルト PHM の組立

  1. こんにちは、PHM40のディスチャージバルブの在庫はございますでしょうか?

  2. お問い合わせありがとうございます。ディスチャージバルブですが、あまり交換するものではありませんので新品パーツの用意はしておりませんが、中古パーツなら在庫しております。

  3. ご回答有り難うございました、相談なんですが、始動時ポンプジェットからガソリンが噴出し、暫く走り、エンジンを切り、始動時に再度アクセルを煽っても、ポンプジェットから噴出しません。
    そこで噴出口を指で塞ぎ、アクセルを数回煽ると噴出します。原因はどう思われますか?ディスチャージバルブのエアー漏れかとおもったのですが。

  4. ご連絡ありがとうございます、現状ですが、加速ポンプの噴射ノズルを指でおさえながら、逆止弁の役割をしないと、噴出しません。一度噴出すればアクセルを煽ると連続しますが、一旦走って来ると、また噴出しなくなります。また、指で押さえると出るようになります。原因はどうおもわれますか?ご教授お願いします。

  5. 現物を見ないとなんともいえません。外からあれこれ考え過ぎず、まずは開けてみれば一目瞭然かも。症状が起きるのは前後バンクのどちらか一方であれば、前後キャブのパーツを入れ替えることで原因が特定できるかもしれません。

  6. オーバーフローに悩んでおります
    デロルトPHM40
    フロートチャンバー内の実油面は
    どの位のレベルが正常なんでしょうか?
    よろしくお願い致します。

  7. オーバーフローとのことですが、まずはフロートバルブの状態を確認(必要であれば交換)されてはいかがでしょうか?

  8. 早速のアドバイスありがとうございます
    フロートチェックバルブassyは交換しようと
    考えております
    フロートレベルの位置調整方法などは
    マニュアルに出ておりますが
    アームの調整加減が私には難しいです
    クリアフロートチャンバーなどで
    実際の油面を確認出来たらなと考えております
    よろしくお願いします。

  9. > フロートレベルの位置調整方法などはマニュアルに出ておりますが

    これのことですか?

    こうする以外に油面の調整方法はあるか、と聞かれているのでしょうか?

    確かにデロルトにはクリアチャンバーが用意されており「実油面」が確認できる数少ないキャブレターのひとつですが、私の知る限り、実油面データは公表されていないと思われます。

    クリアチャンバーは油面の状態を「確認」するため(特に多気筒間の同期を見るため)のもので、なんにせよ「調整」は、上のマニュアルにあるやり方で行うしかないのではないでしょうか。

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