Customized MHR by early PHMC

この車両は、1984(昭和59)年発行の The Bike 別冊「The DUCATI」に掲載されています。

マフラー、ブレーキ回り、Rサスペンションなどが現在と異なります。

ミラーはセブリングではなく、そのコピー品、田中製作所製「ナポレオン・バッカ」。この時代のPHMCカスタムにはしばしば使用されていました。

こんな履歴も残っていました。

車両オーナーのお弟子さんである「モトライダーゆみ」様による当該車両のご紹介です。


●おまけコーナー●
みんなが大好きなセブリング・ミラーについてのTips


「セブリング」は、イタリア・トリノの「ヴィタローニ」社の製品として有名ですが、本来4輪用であるものを、2輪にも使用しております。これは、みなさんもよくご存知のことでしょう。

私は長らくボンヤリとした噂として、ヴィタローニ製として広く認知されているセブリングには元ネタがあって、それはドイツの「エンゲルマン」社製のセブリングだ、と耳にしておりましたが、ハッキリとした事実として確認したことはありませんでした。

ここに微力ながら、そのあたりも含め、深掘りしてみたい所存です。

—————————————–
●1960年代および70年代モデル
—————————————–

3モデルの存在

この時代、ヴィタローニ・セブリングには以下の3モデルが存在しました。


セブリング
セブリング・マッハ1
セブリング・マッハ2

この3種の違いは何なのでしょうか?

無印の「セブリング」と「セブリング・マッハ1」は同じもので、後に「マッハ2」が発売されると、無印が「マッハ1」と称されるようになったと信じている方が(驚くほど)多数おられますが、それは間違いです。

1967年当時のミニカタログ(すなわち、この年には発売されていたことが分かります)には、無印の「セブリング」と「セブリング・マッハ1」が併記されています。そして、そこに答が書かれています。”specchio retovisore esterno simile al Sebring, ma più poccolo e più leggero, peso gr. 160″(ミラー外観はセブリングに似ているが、小さく軽く、重量160g)と。

そう、マッハ1は無印に比べ、ふたまわりほど小ぶりなのです。おそらく、ポルシェ911やランボルギーニ・ミウラのような大型GTには大ぶりな無印を、フィアット・アバルトやロータス・エランのような小型車には小ぶりなマッハ1を使ってほしい、という意図がヴィタローニにあったのでしょう。

派生モデル「マッハ2」は、本当にレアで、なかなか実態を掴み難いのですが・・・マッハ1にひさしを付けたものと言っていいでしょう。

シェル(筐体)の材質

以下の3種類が存在します。

鋳造アルミニウム
鋳造亜鉛合金
プラスチック

金属製のシェルを持つモデルは最初期型にあたり、ヨーロッパでも貴重品です。デッドストック(最近は NOS = New Old Stock というようですね)ともなれば、超高価格で取引されています。

スタンプ(打刻)

それぞれのロゴタイプが刻印されています。




ロゴタイプの他に
「VITALONI TP-RT-CL III No 40」
の打刻があるバージョン

シェルの色

シェルカラーには以下の5種類が存在します。

 クロームメッキ
 シルバー
 白
 レッド
 イエロー



鏡面

以下の2種類が存在します。

平面(プレイン)鏡
凸面(コンベックス)鏡

マウント部の比較

初期型セブリングの底部は、スタッドが2本立っているのが特徴的です。

マッハ1では、シェルと台座が分割式になっています。

当時の取扱説明書

ドイツ語と英語の併記となっており、ドイツ語圏向けでしょう。

—————————————–
●1980年代モデル
—————————————–

モデルチェンジを受けたセブリングは、1種類のみが存在します。刻印は「 Vitaloni III [e3] 30009 」で、そこから通称「30009」と呼ばれています。

シェルの材質はプラスチックのみが存在し、シェルの縁が厚く丸みがあるのが特徴です。

シェルカラーは、黒およびクロームの2種類が存在します。

構造はマッハ1の分割式を、サイズは無印セブリングの大きさを、(イイとこ取りで?)混ぜ合わせたものと言ってよいでしょう。

DESIGN INT REG / FOR PAT PEND

ヴィタローニ製セブリングのシェルには、Design Int(ernational) Reg(istered) / For Pat(ent) Pend(ing)とのレリーフが施されています。日本語にすれば、「意匠国際登録済 / 特許出願中」というところでしょうか。

もしヴィタローニの製品が他社のコピーであれば、かように自己の権利の主張を金型に施すでしょうか?

—————————————–
●エンゲルマン・セブリング
—————————————–

ここでエンゲルマン・セブリングについて考察したいところですが、あまりに情報がなく途方に暮れるばかりです・・・エンゲルマンとヴィタローニ、どっちが先にセブリングを発売したかを特定することすらできていません。

定説によると、

  ●ドイツのエンゲルマンが(最初に)「セブリング」を発売した
  ●フランスのミクソが「マッハ1」(というコピー品)で追従した
  ●ヴィタローニは、その「セブリング」および「マッハ1」両方の権利を取得し、同じラインの製品として世に出した

ということの様ですが、そういった予断を無視すると、私の推理では、巷の噂とは逆に、エンゲルマンがヴィタローニをコピーしたように思えてなりません。というのも、ヴィタローニのセブリングには60年代のものが多数、現存していますが、エンゲルマンにおいては、(少なくとも現時点において)それが見当たらないからです。

エンゲルマン・セブリングの打刻はいくつかバージョンがありますが、一貫して言えることは、モデル No. が 233 ということです。

GM(オペル)はエンゲルマン・セブリングを純正部品として採用していますが、それにはGMのパーツナンバーが刻まれています。

最も新しい打刻。

右下にみえるセブリングのマークは、ヴィタローニのものと完全に一致しており、少なくとも無関係ではないことは明らかです。

しかし、エンゲルマンとヴィタローニでは、構造は完全に異なります。

—————————————–
●ミクソ・セブリング
—————————————–

「ミクソ・セブリング」の詳細に至っては完全にお手上げです。ミクソが、フランスのカーアクセサリーメーカーであることは明らかで、ホーンについては有名なようですが(ただし、それすら仏クラクシオン社のOEMのようです)、ミラーに関しては全く情報はありません。

分かっていることは、エンゲルマン同様、ヴィタローニが使っているセブリングのロゴタイプを使用していること、

ミクソ・セブリングの筐体の裏側は、ヴィタローニのものと全く同じであること(上側マイナスネジの左下を見てください。なんと!ヴィタローニのマーク が刻印されています!!)、

さらにいえば、「無印セブリング」と「セブリング・マッハ1」を併売していたことが分かっています。下の画像は当時の無印セブリングの展示用サンプルでしょうか。フランスらしくヴィタローニに無いブルーがラインアップされています。

こちらはマッハ1のサンプル。6個のうち3個(赤、白、青でしょうか?)が失われています。

順当に考えると、ミクソはヴィタローニからOEM供給を受けていた、と判断できるのではないかと思います。

————————————————
●ハリー・モスというのもある!
————————————————

「ハリー・モス」なる英国のカーアクセサリーメーカーからも「セブリング・マッハ1」が発売されています。広告文中にはヴィタローニという言葉は全く出てきませんが、我こそはデザインおよび構造のパテントを取得した本物であると主張し、他社の同様な製品を「模造品」とこき下ろしています。

1976年の広告では、マクラーレンF1チームにミラーを供給していることを誇らしげに訴えていますが、そのミラーはヴィタローニ・カリフォリニアンにしか見えません!

ハリー・モスもミクソ同様、ヴィタローニからOEM供給を受けていた、と考えるのは順当と思われます。ヴィタローニは当時、海外進出において、こういったOEM戦略を行っていたのでしょう。

以上の状況証拠から、いよいよ私は(世の定説とは異なり)ヴィタローニのセブリングこそオリジナルである、と信じるわけですが、はたして真実はどうなのでしょうか?

——————————————————————————–
おまけのおまけ●日本にはナポレオン・バッカがある(笑)
——————————————————————————–

1970年代末から80年代にかけて、田中製作所(現タナックス)が有するミラーブランド「ナポレオン」にもセブリング・コピーがありました。その名は「バッカ」。

金属製シェルに「NAPOLEON BACCA」の刻印。セブリングの流儀を正しく踏襲しています(笑)

バッカのウリは、2節を持つ格納式ステー。これで理想的なミラー取付位置を実現たらしめると主張しています。この辺の凝りようが、日本製の面目躍如といったところなのでしょう、

世界七ケ国特許申請中、意匠登録申請中なんですと!(どこかで聞いたような・・・(笑))

バッカは本来、舶来品のセブリングには手が届かない人むけのコピー品に過ぎなかったはずですが、現在、その中古品が本家セブリングと同等以上の価格で取引されています。(どうやらこれは、CBX400Fに超高価格が付けられているのと同じ現象である模様)

3 thoughts on “Customized MHR by early PHMC

  1. 当方もセブリングミラーが好きで、近年の無印足つきコピー品(笑)含めいくつか集めていますが、原点を探ったことはなく、奥深いですね。
    てっきり「セブリング」というのはオリジナル品を作った会社(ブランド)名かと思っておりました。。。

    当方の知る限りでは66年の330P3に装着されているのが初出のようなので、67年あたりに一般発売開始というのが妥当な気もします。

    ところで畏れながら申し上げますが、本車両含め初期のPHMC車両のミラー、台座がヒンジになっているらしき”Bacca”では…? こちらも今や相当なプレミアム相場で取引されているみたいです。

  2. コメントありがとうございます。

    > 台座がヒンジになっているらしき”Bacca”では

    ご指摘の通り、ナポレオンのバッカですね!

    実は私もナポレオンのバッカを1個持っておりますが、いつの間にやら、エンゲルマン製のものと混同していました。

    訂正して、ナポレオン・バッカの項も追加させていただきます。

    今後ともよろしくお願いいたします。

  3. 早速の記事追記、ありがとうございます!
    実はバッカを間近で観察したことがないので興味深いです。
    台座ジョイント部分、可倒式ということで車検対策の意味があったのでは?と推測(邪推?)しておりました。

    手もとの金属ボディセブリング(平面鏡、2本スタッド)と、80年代セブリングを見比べるに…
    金属製は先端がウエッジ形状で長く、何といってもシェル終端が薄くシャープなのが、さすがオリジナルデザイン!と感じますね。
    その点、エンゲルマンの唇みたいなゴムリップはさらに残念な気がする(笑)(独TŪV規格への対処かもしれませんが)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

画像を添付できます (JPEG のみ)